2021-01-01から1年間の記事一覧

ゆるやかな暗さの中で

具合が悪いような気がして病院へかかる癖がある。覚えている最初の記憶は小学生の頃、夜寝ていたら胸が苦しくなったときのこと。深夜、隣で寝ている母を起こして「お母さん、胸が苦しい」と訴えた。母は迷わず車を走らせて夜間救急へ連れて行ってくれた。何…

くたびれた木曜日でさえ

知らない街の地下鉄に揺られながら、(今住んでいる場所から逃げてここに引っ越してアパートを借りてスーパーやコンビニや職場に通うようになったら、また私はどこか遠くへ行きたいと思うんだろうな)と考えた。私が私として生きている限り、有象無象になっ…

光り

夢の中でしか行くことのできない本屋さんがあって、今日は久しぶりにそこへ行くことができた。日の当たらない建物の中を、螺旋階段を使ってゆっくりと上っていく。階段も壁も色はやわらかなベージュで、ここに大きな窓があってそこから西日が差し込んだらき…

誰でもいいから助けてと願ったあの日の

職場でひとりにされてしまうことの心細さを知っている。仕事帰りに美容院で前髪を切ってもらっていた。17時過ぎの店内には私ともう一人のお客さん、さらに電話の向こうのお客さん。絶対大変だと思う。それらを全部自分だけで対応する美容師さんを見ているこ…

海底で息ができたら

灰色に沈んだ街は冷たい雨が降っていて、車の走る音がいつもより聞こえないような気がしていた。先週まで30度近くあった気温はあっという間に下がって、ここ数日は最低気温が15度を下回る日もある。あんなに秋が来るのを待ち望んでいたのに、いざ寒くなって…

週のおわりに

そういえばこれまでの人生で誰かに花を贈ったことってないなと思った。可愛いお菓子も入浴剤も手紙もあげられるけれど、花をあげるのはちょっと勇気が要ると思ってしまうのはもしかしたら私だけじゃないかもしれない。卒業式の学生の胸にも白い病室の片隅に…

アンドロイドだから知らない

家でスマホを眺めていたら、父親に赤ちゃんの写真を見せられた。親戚のお兄ちゃんに女の子が生まれたらしい。 私が怠惰をやっている横でみんな大人になっていく。普通に生きていくことは難しい。仕事は慣れないし生き方がわからないし、人の心もわからない。…

ひとり

ひとりぼっちの家の中でテレビを見ていた。誰もいないから今夜ここは私だけのパーティ会場で、誰にも見られないのをいいことに画面の向こうから流れる電波ソングに合わせて一緒に歌った。パーティ会場どころかライブ会場だ。観客も出演者もぜんぶ私。 一方で…

オレンジ色のベーグル

仕事帰り、いつもなら真っ直ぐバスターミナルに向かうところを寄り道してベーグルを買った。寄り道したと言うか、明日のお昼ご飯の調達のためだった。社員食堂があるからそれを使えばいいんだけど、万が一食べきれなかった時に残されてしまうご飯を見るのが…

朝のバスで

休憩中にご飯を食べて、それから上司に貰ったブラックサンダーを食べた。今月末はハロウィンだから、それ仕様のパッケージになっている。季節が進むのはいつも早い。ブラックサンダーの味は変わらなくて、高校生の頃同じ部活の男子にそれを奢ってもらったと…

パンケーキの記憶

人生がわからない。 いつもだいたいそんなことを思っている。夜に人生について考えるのは良くないと見聞きするのに、夜くらいしか考え事をする時間が取れないのは一体どういう矛盾だろう。大学を卒業する数ヶ月前、気分が優れない日が続いて、家族と喧嘩ばか…