オレンジ色のベーグル

仕事帰り、いつもなら真っ直ぐバスターミナルに向かうところを寄り道してベーグルを買った。寄り道したと言うか、明日のお昼ご飯の調達のためだった。社員食堂があるからそれを使えばいいんだけど、万が一食べきれなかった時に残されてしまうご飯を見るのが嫌で、未だに社員食堂が怖くて使えない。胃がダメになってからというもの、あまりお腹が減らない暮らしをしている。食べすぎるともたれる。食べすぎなくてももたれる。

小学校1年生だったころ、胃が弱いとかそういうんじゃなくて、単純に少食だったためにほぼ毎日給食を残していた。ご飯の日だろうがパンの日だろうが、もしくはソフト麺でも好きな献立でも、関係なく私のお腹はすぐに満腹になる。スーミータンというとろみのある卵スープが好きで、もし毎日それが出たとしても嬉しかったと思う。おかずをおかわりしている子たちを横目に、なかなか減らないお皿の上の給食たちを私はちびちびと食べた。今日も食べ切れないな、の諦めと本当は残したくないのにという悔しさで胸がくるしい。それを言葉にするにはあまりにも幼くて、だけど教室でわがままを泣き叫んではいけないと理解していたからぐっと堪えた。食べてもらえなかった給食はいつも悲しそうだった。薄暗い給食室で、食べきれなかった給食を片付けながら何度も心の中で謝ったのを覚えている。

今は全く違う理由からご飯がたくさん食べられなくていつも悔しい。大学2年のころには平均よりは少し多く食べられる胃袋になっていて、学食の普通盛りラーメンだけじゃ足らず、平たいお皿に盛り付けられた野菜炒めまで食べたことがある。所属していたサークルで行きつけの焼肉屋さんに行ったとき、余ったお肉を片付けるのは私の役割だった。たくさん食べられるのが嬉しくていっぱい食べていた。いつかまたお腹いっぱいご飯を食べられる毎日が来るだろうか。

買ったベーグルは期間限定のかぼちゃ味。オレンジ色がまぶしくて、ハロウィンのおばけかぼちゃを思い出す。これを食べるために出社する、そのくらいのゆるさが今の私には必要なのかもしれない。人生がわからなくたってベーグルが美味しかったらそれだけで100点をあげたい。この日記を書き上げた。120点をあげることにした。